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コメントをお寄せいただいた方々(50音順·敬称略)
今祥枝/江國香織/折田千鶴子/きさらぎ尚/久米宏/古賀太/
新藤悦子/那須慶子/橋爪勇介/はな/東紗友美/山口路子

今 祥枝

ライター/編集者

絵画のように美しい映像とは裏腹に、狂おしいほどの愛の喜びと、
業火に焼かれるほどの嫉妬と絶望、
その苦しみを伝えるピエールとマルトの物語に、どうしようもなく心惹かれた。
愛は人を身勝手にするもの。ピエールの傲慢さと残酷さは、
正当化もできなければ美化することもできない。
それでも、ただただ分かち難い魂の結びつきに
愛の深淵さを思う。

江國香織

小説家

失われた時代の輝かしい手ざわりと、
ボナールという画家の残酷なまでの誠意と無邪気。
伝説のカップルの、野蛮さと生命力が美しい。
そしてもちろん、あの黄色。

折田千鶴子

映画ライター

あまたある画家の伝記映画とも似て非なる、
色んな思いを乗り越えて“運命や天寿を全うした2人の愛”から滴り落ちたような、
どこか透明で清涼感にも似た後味にふっと酔う。
隠れ家のような田舎での暮らし、川遊びや睡蓮、訪ねるモネらとの交流など、
興味津々の名場面も目白押し!
ちょっとエキセントリックで謎めいた女性マルトも、
今だからこそ描き得たのかストンと腑に落ちる。
主演2人が、とにかく素晴らしい!

きさらぎ尚

映画評論家

画家とその妻は、こんなにも強く、悩ましい絆で結ばれていたのか。
生涯にわたる彼らの関係は、驚きと困惑に彩られている。
芸術家のエゴ、妻の虚言——。出会った瞬間から、
二人が一緒に画面に映るこの映画は、きっぱりとして濃やかな、
まるで両人の肖像画だ。どちらがどうのと答えを求める必要はあるまい。
もう一人のモデルの存在や印象派画家モネとの交流、美しい風景。
本筋の<二人の愛>に散りばめられている
これらのニュアンスまで楽しみ尽くせる。

久米宏

フリーアナウンサー

画家ピエール·ボナールが亡くなったのは 僕が3歳の時でした
そのピエールと妻マルトの人生·····
スクリーンが明るくなった時
きっとこれが真実だったのだと信じました
フランスを代表する2人の俳優はそれ程見事なのです

古賀太

日本大学芸術学部教授

この映画は2度見るといい。
1度目は画家ボナールの幸福な軌跡として、
2度目は妻マルトを始めとして、ブロンドのモデルのルネ、
若い芸術家たちを魅了し何度も富豪と結婚するミシアらの、
女たちの苦渋の物語として。
それにしても、これまで太めの情けない男を演じてきた感じの
ヴァンサン·マケーニュが、端正な顔立ちのボナールそっくりになったのには驚いた。
また20代から70代までのマルトを演じたセシル·ドゥ·フランスの
強い存在感にも圧倒された。
今後、ボナールの絵の女性が、
すべてセシルの顔に見えてきそうだ。

新藤悦子

児童文学作家

セーヌ川のほとりの田舎家、
ボナールが去ったその家で、
マルトは絵を描き始める。
描かれる女から描く女へ。
ボナールのミューズは、ミューズを越えて、
画家に近づこうとしたのか。
絵筆を持ったマルトの横顔に
目が釘付けになる。

那須慶子

イラストレーター·画家

感極る作品。
わたし自身、小学生時に美術館でピエール·ボナールの絵に出会い、
思春期に一番影響を受けた大好きな画家だ。
印象派の光の表現よりも、絵画全体の色のバランスを重視し
神秘性を唱えたナビ派の一員としても知られるが、
印象派と並んで展示されることも多かった。
ボナールは妻と2人で気に入ったル·カネで暮らし、
モネも幾度となく訪問している様子が窺い知れたり、
生涯一人の女性を愛し続け「幸福の画家」とも呼称されたが、
事実は違うことが、この映画内で明らかになる。
傷を抱え、最期は見事に孤高の画家を全うした。
胸をわし掴みされ、久しぶりに泣いた。

橋爪勇介

ウェブ版「美術手帖」編集長

互いが互いを絡めとり、
たんなる画家とミューズという関係には
収まり切らないボナールとマルト。
この映画は、複雑な愛の変遷の物語だ。

はな

モデル

深い絆で結ばれたピエールとマルトが過ごした時間が
美しい花を咲かせたように、
人生でもっとも幸せな景色は、愛が描くもの。
大好きなピエール·ボナールの作品を
より身近に感じさせてくれる映画。
秋が運ぶ風景と重ねてみたくなる、
オススメの一本です!

東紗友美

映画ソムリエ

“幸せそう”とだれかに思われなくたって良い

ふたりにしか理解できない関係が
ふたりだけにしかわからないかたちで続いていく
それでもう十分なんじゃないか

永遠に離れないという約束ではなく
はなればなれになっても
導かれるようにそのひとのもとへ戻ってくる
それを奇跡と言ってもいいと信じたい

セーヌ川のゆるやかな流れのなかで
ふたりだけの時間を熟成していく

調和の取れていた時期も苦悩と対峙する時期も
水面のきらめきがすべてをつつみこむ
まぶしくて目を細めたくなるような時間だった

画家ピエール·ボナールの
インスピレーションの源にふれられる
愛と色彩の物語

山口路子

作家

裸になって緑の木々の間を駆けまわり
水と戯れるふたりの姿が目に焼きつき、笑い声が耳に残る。
原始的な官能の悦びの共有、
ここにふたりの絶対的関係性の核があるように感じた。
そしてそんな相手である妻を飽くことなく描き続けた画家が、
しかし、決して顔をはっきり描かなかったという事実が
スパイシーな陰影となり、惹きつけられて、
まさに一枚の絵画を前にいつまでも
佇んでいるような感覚になる。